東京高等裁判所 昭和38年(ネ)2043号 判決
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〔判決理由〕(争いのない事実)
一控訴人先代内藤寛が控訴人主張の実用新案権の権利者であつたが、同人が、控訴人主張の日死亡し、控訴人において、相続により右実用新案権を承継したこと、右実用新案の登録請求の範囲が控訴人主張のとおりであること及び被控訴会社が、右実用新案と同一構造の窒化炉三基(第一、第四、第八号炉)を所有使用していることは、いずれも当事者間に争いのないところである。
(職務発明による法定実施権の有無について)
二被控訴人が、本件登録実用新案につき、その主張のように、旧実用新案法(大正一〇年法律第九七号、以下同じ。)第二六条、旧特許法第一四条第二項の規定による実施権を有するとするためには、(一)本件考案が控訴人先代の勤務に関しされたものであること、(二)本件考案が、その性質上、被控訴会社の業務範囲に属するものであること及び(三)控訴人先代が本件考案をするに至つた行為が、同人の任務に属するものであることの三要件を充足する場合でなければならないことは、前記法条に照らし明らかなところ、本件考案が前掲(一)及び(二)の要件を備えたものであることは当事者間に争いのないところである。
しかして、当事者間に争いのない本件登録実用新案の登録請求の範囲及び控訴人先代が昭和二一年一二月から昭和二八年五月取締役退任まで被控訴会社の常務取締役又は専務取締役として技術担当重役の職にあつたこと、(証拠―省略)を総合すると、控訴人先代が昭和二六年三月頃、本件登録実用新案にかかる考案を完成するに至るまでの経緯及び同人の当時における職務内容が、いずれも原審認定のとおりであることを認めうべく、原審における右内藤寛の供述中これと牴触する部分は、前掲各証拠と比照して、にわかに措信し難く、他にこれを覆えするに足る証拠はないから、これらの点に関する原判決の記載(判決書「理由の部」四枚目表(二)の(1)「従来」から八枚目表末「貢献したものであること」まで)をここに引用する。しかして、控訴人先代の本件考案完成当時の職務内容が右認定のとおりであることからすれば、同人は、本件考案を完成した昭和二六年三月当時、石灰窒素の製造販売を業務目的とする被控訴会社(被控訴会社が石灰窒素の製造販売を目的とする会社であることは、当事者間に争いがない。)の技術担当の最高責任者として、その経営方針である石灰窒素生産の向上を図るため、技術面において、すなわち、具体的には、窒化炉の効率を高め、生産能力を増大せしめることにおいて、奉仕貢献すべき具体的任務を有していたものと認めるのが相当であり、したがつて、控訴人先代が本件考案をするに至つた行為は、当時同人の任務に属するものであつたということができる。
控訴代理人は、この点に関し、考案をするに至つた行為がその任務に属する(前掲(三)の要件をみたすとする)ためには、その考案をすべき命令ないしは指示があつたことを要するところ、控訴人先代にこのような命令ないし指示はなかつたのであるから、本件においては、考案をするに至つた行為が控訴人先代の任務に属するという前掲(三)の要件ををみたしたものとはいえない旨抗争する。控訴人先代に対し、本件考案をすべき旨の命令ないし指示がなかつたことは、被控訴人の明らかに争わないところであり、もとより、具体的にこのような命令ないし指示があつたときは、その命令ないしは指示により、その内容たる事項が任務となることはいうまでもないが、このような命令ないしは指示がある場合に限り、任務に属するとすることができるとする控訴代理人の見解は、狭きに失し、当裁判所の賛成し難いところである。けだし、石灰窒素生産の向上のため不可欠の前提条件である窒化炉の改良考案を試み、もつて、被控訴会社の経営に寄与すべきは、直接、右考案等の作業を担当すると、あるいは、これを指導監督するとを問わず、その技術面における最高責任者の地位にあつた控訴人先代の当然の責務とみるを相当とするからである。この場合、控訴人先代が、控訴人主張のように当時、技術担当重役とは名目のみで事実上別個に個人会社を主宰していたというようなことは、仮にそれが事実であつたとしても、控訴人先代が被控訴会社に対して負う前記責務に消長を及ぼすものでないことは、その性質上、多言を要しないところであろう。
(むすび)
三以上説示のとおり、本件における証拠関係のもとにおいては、被控訴会社は、本件実用新案につき、旧実用新案法第二六条、旧特許法第一四条第二項の規定による実施権を有するものというべく、したがつて、右実用新案権(出願公告により実用新案権の効力を生じたものとみなされたものを含む。)が被控訴会社の行為により侵害されたことを前提とする控訴人の本訴請求は、爾余の点について判断するまでもなく、理由がないものというほかはなく、右と同趣旨に出た原判決は相当であり、本件控訴は失当として棄却を免かれない。(三宅正雄 影山勇 荒木秀一)